技術が変えた林業の姿

馬車からデータ主導へ


ノルウェーで育ったアンドレアス・ローエイムは、好奇心旺盛な子どもの頃、馬を使って木材を運ぶ近所の人の後によく付いていきました。18歳の時、作業を効率化するためにトラクターを購入した彼はその後まもなく、トラクターとウィンチを使い手作業で木を伐採する林業ビジネスを立ち上げました。

それから約40年が経ち、現在、アンドレアスと息子のミカエルは、最先端の技術を用い林業機械の開発・稼働試験をサポートする会社を経営しています。ドローンでのデータ収集や、衛星測位技術、リモートモニタリングを最新の自動化・通信技術を備えた機械とつなぐことで、新たな工法を作りだしています。アンドレアスが子どもの頃には想像もできなかった技術ですが、経営者として彼はそれらを積極的に導入しています。

「新しい技術を活用することが成功の鍵です」とアンドレアスは語ります。「安全性が向上し、作業効率も大幅に上がる。最前線で活躍するためには欠かせません。」

彼が子どもの頃に見ていた伐採方法は、環境問題や人材不足の労働市場に対応しながら事業拡大を目指す林業家たちにより、馬やトラクターをはるかに超える進化を遂げてきました。そして木材の需要は増え続けています。現在、年間約40億㎥もの世界の木材生産量は過去最高水準に到達しており、2028年には世界の木材市場が1.15兆ドル規模に達すると予想されています。


ノルウェーのオスロの北にあるValdres Skog社は、従業員20名を擁し、コマツ製のハーベスター5台とローダー5台を操作しています。「新しい技術を活用することが成功の鍵です」とオーナーのアンドレアス・ローエイム氏は言います。「より安全、より効率的、より確実に作業できるようになります」
Valdres Skog社では、250を超える森林作業で年間約13万㎥の森林を伐採しています。テクノロジーはビジネスに不可欠な要素です。 
ミカエル・ローエイム氏(左)とアンドレアス・ローエイム氏(右)

運転検査員の視点


ヨアキム・ヘニングソンは馬の時代に遡るほどではありませんが、林業技術の劇的な進化を間近で見てきた一人です。

義父の伐採会社で林業機械のテスト運転を始めてから、その後コマツフォレストで本格的に運転検査員として働く中で、林業機械は急速に進化していきました。

「1960年代、70年代、80年代の林業経営は、機械の操作も修理も肉体的に非常に厳しい仕事でした。」とヘニングソンは振り返ります。

しかしその後、機械のパワーや信頼性、操作性など作業効率が飛躍的に向上し、状況は変化しました。1980年代に登場したコマツの先駆的なシングルグリップハーベスターは、安定性と快適性の向上を目指して一から新しく設計されたシャーシが採用され、また燃費に優れたTier 4エンジン(EU Stage Vエンジン)や、油圧キャブサスペンションシステムなど、革新的な技術が次々と導入されました。これらの進化は全て、排出ガスの削減、安全性や生産性の向上、そして長期的な森林の健全性と生物多様性の維持のために、森林資源の管理を行うというニーズの高まりに応えるものでした。

2012年頃から登場したスマートテクノロジーは、生産性、安全性、作業効率を継続的に向上させながら、人手不足や気候変動といった新たな課題に対応するための強力なツールを提供してきました。ヘニングソンは、世界中を飛び回りながら新しい技術をお客さまに紹介しました。

「最初は抵抗もありました。お客さまも、新しい技術をどう活用すればいいのか分からなかったんです。」と彼は語ります。
しかし、お客さまからのフィードバックを受け改善するのにはそう時間はかからず、現場でのテストを通じてその性能をお客さまに示すことができるようになりました。リモートでのオンラインサポート導入により、技術支援が迅速かつ安価で提供可能になったほか、クレーンを最適に制御するスマートクレーン技術により、操作精度が向上しオペレーターの作業負担が軽減されました。さらに、機械稼働データの解析により、休車時間が減少し、生産性が向上しました。

ヘニングソンは、数年前のある金曜日の午後、同僚に『今週、一度も修理していないな。』と話したことを今でも覚えています。
「私にとっては驚くべき出来事でした。」と彼は笑います。「でも同僚は、『そうだね。でも退屈だったよね?』と言っていましたね」

二世代にわたる劇的な変化


アンドレアスとミカエルの親子は、林業における劇的な変化を体現しています。彼らが営む Valdres Skog社 は、オスロの北約160kmのエストラン地方に位置し、研修生2名を含め20人の従業員がいます。そこではコマツのハーベスター5台とフォワーダー5台を駆使し、250以上の森林作業現場で年間約13万㎥の伐採を手がけています。

彼らの伐採管理技術が飛躍的に向上したのは、2015年にスウェーデンでの展示会でコマツの「MaxiFleet(現:Smart Forestry)」が発表されたときでした。これは、業界初のウェブベースのフリート管理システムで、各機械の制御システムからの情報をリモートで可視化するものでした。これにより、オフィスから生産状況をリアルタイムで把握できるようになり、遠隔地の現場管理やアクセスしづらい地域で稼働することの多いこの業界にとってとても大きな進歩でした。

この新技術の導入を機に、Valdres Skog社とコマツは長年にわたるパートナーシップを築くこととなりました。彼らのフィードバックは、新しいソリューションが現場でどのように機能し、更なる改善点を検討する上でとても役立ちました。このようなパートナーシップは極めて重要だとヘニングソンは言います。「スウェーデン国内だけでも森林や樹木、地形、製材所の条件が多様なため、国の北部地域でテストを行っても、それがほかのあらゆる地域や条件でうまく機能するとは限りません。」

ミカエルは、ノルウェー生命科学大学で農業・環境科学・自然資源管理を学び、コマツが取り組んでいた新たな技術に関心を持ちました。「私は林業におけるデータ活用の可能性について幅広く研究してきました。」と彼は言います。

Smart Forestryはさらに進化を続け、管理業務の自動化、リモートでのトレーニングやサポート、ドローンによるデータ収集、各現場や機械間での情報共有など、様々な機能の追加によりValdres Skog社を支援しました。2021年11月の暴風雨で発生した推定700万本の倒木の対応にも、スマートテクノロジーは欠かせないツールでした。

Valdres Skog社がテストに協力した最新の製品であるSmart Forestry Precisionは、最新の衛星位置測定技術を使用して、わずか数㎝の誤差の範囲内で機械の位置を特定します。「Precisionの位置情報を利用した仮想フェンスにより、特に環境への配慮といった点において、効率を上げることができます。」とミカエルは言います。「今では、Precisionなしで仕事をすることは考えられません」

 

Valdres Skog社のオペレーションマネージャー兼機械オペレーターでもあるミカエル・ローエイム氏は、大学生の頃にテクノロジーに対する理解を深めました。彼は父親のアンドレアスとともに、家族の伐採事業のために新しい技術を導入してきました。「誰もが何か新しいことに挑戦する意欲を持っています」 
 Valdres Skog社は、コマツのSmart Forestry Precisionの開発に協力しました。「Precisionは書類作業なしでシームレスなソリューションを実現します」とアンドレアス・ローエイム氏は言います。リアルタイムデータにアクセスすることで、チームはよりスマートに作業し、より正確な製品を顧客へ届けることができるようになります。

一巡りして、新たな形へ


アンドレアスは、すべての木が一度に伐採され、その後再び植えられる皆伐の時代に育ちました。時を経て、子どもの頃に見ていた森林は成長し、再び伐採の時期を迎えています。しかし、今回は馬ではなくコマツの林業機械を使用することで、作業工法は大きく変わっています。

テクノロジーの進歩により、伐採する樹木の選定や多様な樹種の植栽が可能になり、森林生態系への影響を最小限に抑えながら作業を進めることができます。Valdres Skog社は、森林の成長を持続的に行うため、間伐用の機械を使い自然災害や病害に対して強い森林育成を進めています。

「森林は適切に管理すれば、健全な状態を保て、CO₂を吸収します。化石燃料に代わる貴重な資源として活用することもできます。」とアンドレアスは語ります。

ヘニングソンもまた、運転検査員として働き始めた頃を振り返って言います。「今は環境への配慮が大きく進みました。森林を守りながら木材需要に応えることができるなら、それは人類にとってウィンウィンだと思います。」

 

コマツフォレストのテストドライバー
ヨアキム・ヘニングソンを紹介します。
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社会のニーズに応えるために、森林を守り続ける

キクイムシがヨーロッパの森林に壊滅的な被害をもたらしています。コマツフォレストリーは、独自のテクノロジーでこの課題に取り組んでいます。

コマツフォレスト企業サイト(英語)

コマツは建設機械だけでなく林業事業にも世界規模で取り組んでいます。植林、育林、伐採のサイクルを永久的につないでいくことで、持続可能な地球環境の実現に貢献します。

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