柳楽はまた、プロジェクトの人員と資金を確保するため、カンボジアの地方政府や地雷除去当局、NGO、日本政府などから支援を取り付ける初期交渉を担当しました。地元コミュニティからの信頼を獲得するという複雑な交渉も併せて行いました。
プロジェクトの最初の年は、地元住民とほとんど交流がなく、協力を得ることもできませんでした。信頼関係が育ってくるのは、地元の作業員に対人地雷除去機の操作とメンテナンスの講習をスタートさせてからのことでした。また、コミュニティの再建という彼らと直接対峙する取り組みで信頼関係を深めて行きました。コマツの社員が地元の生徒や教師たちとともに、学校の新設や改修に協力したのです。現在では地域の90%以上の子供が学校に通っています。
「私の記憶に最も強く残っているのは、地元に受け入れられ感謝されるようになってから、現場で作業している私たちを見かけると投げかけてくれるようになった明るく大きな笑顔です。」
道路と学校が整備されると、地域の人々の暮らしは劇的に、そして急速に変化しました。柳楽のコマツの技術と製品がポジティブな変革をもたらすはずという自らの信念が自信に変わりました。
「コマツの技術が平和に貢献していること、暮らしをより良くするプロジェクトを継続できることが、ひとりのエンジニアとして素晴らしいと感じています。」
カンボジアにおける地雷除去を支援する柳楽の数十年にわたる取り組みについてもっと知りたい方はこちらから。
こうした作業には問題解決能力と創造的思考が求められるという点で、それまでの彼の業務とは異なりました。故障原因を特定するために地元のオペレーターと協働する中で、時には驚くような発見もあります。例えば、機械の故障原因が地域特有の害獣ということもありました。
「地雷により機械が破損することはありませんでしたが、ネズミが電気ケーブルをかじったりするので、その対策をしなければなりませんでした。」
ゴディは、地元のカンボジア人機械オペレーター向けに正規の教育プログラムの作成も行いました。これは、地雷除去プロジェクトのためであると同時に、オペレーターに農業以外のスキルを身に付けてもらうための教育機会提供の意味もありました。フィリピン出身のゴディはクメール語を話せませんが、操作を何度も繰り返し見せることで、よく理解してもらい、信頼も得られることがわかりました。
「私たちは同じ言語を話せませんでしたが、現地の人はいつも優しいふるまいで彼らの気持ちを示してくれました。」
ゴディは母国フィリピンでコマツに入社、セネガルのダカールに配属された後、現在タイのバンコクで業務にあたっています。
「これまでの経験から、私はあらゆる種類の建機の操作と教育をを実施することができますし、そのスキルを活かして、多くの国を訪れ、いろいろな文化に触れる貴重な機会となりました。」
「このプロジェクトのことを聞いたときに、絶対に参加したいと思いました。」
カンボジアの地で森高は、地方政府当局と交渉したり、コマツの製品がいかに地元の農業活動をサポートできるかを住民に理解してもらうなど、広範にわたるプロジェクトのあらゆる局面に関わるようになりました。
彼女にとって難しかったのは、建機を田畑で利用することに慎重な地元農家から信頼を獲得し、協力関係を築くことでした。しかし、ある村の村長の助力を得て、技術的な先進性を備えたコマツのブルドーザーがいかに農業の作業効率を引き上げ、農家の収入増を支援できるかを証明するためのテスト用地を設けることができました。
農民たちがこのテスト用地を訪れるようになったのに合わせて、森高は、米やトウモロコシ、タピオカなどの生産データの収集を始めました。じきに彼らは「次はこれを我々の田んぼでもやってほしい」と言うようになり、地元村落の生活の質向上に大きな効果をもたらすきっかけになりました。
「この活動を通じて、地元の農家の人々とその子供たちが、できるだけ多くの選択肢を持つことができるようにしたいと思っています。私たちの製品とこの取り組みによって、生活がよりよくなるはずです。」
このプロジェクトをきっかけに、森高はもう一つの重要な役割を担うようになりました。このプロジェクトがカンボジアの人々にどのような影響をもたらしてきたかを、日本の新しい世代に紹介することです。そのために彼女は多くの日本の学校や大学などに講師として訪れています。