環境にやさしい道路建設のかたち

コマツの技術が野生動物の生息環境への影響を軽減します。

自然が残る土地を二分するように道路がつくられると、野生動物の行動範囲を制限し、慣れ親しんだ住みかやコミュニティ、パートナーとの生活など生きていくために不可欠なものを奪ってしまう可能性があります。また彼らが本能のまま、今まで通りの路をたどり人間の道路を横切れば、自動車との衝突というリスクが発生します。

しかし、自動車での高速移動を妨げず、野生動物のコミュニティを守り続ける方法があるとしたらどうでしょう?世界中の多くの場所でつくられており、「アニマルブリッジ」や「グリーンブリッジ」とも呼ばれる、野生動物のために作られた横断路がその答えです。こうした路は、高速道路が野生動物の生息地を横切ったとしても、動物たちが今まで通り自分たちのコミュニティで生活できるようにつくられています。

野生動物たちのコミュニティを守る

人の生活に欠かせない道路の建設は、環境への影響がすぐに見えるか見えないかに関わらず、野生動物の数を減らし、絶滅危惧種の絶滅を加速させ、生物多様性を損う要因となり得ます。
また、路に迷った野生動物が自動車と衝突するという危険があり、人間にとってもリスクとなります。

ヨーロッパで最も交通網が密集しているドイツでは、野生動物に関連する事故が毎年20万件以上発生しています(ドイツ語のページが開きます)。この問題に対処するため、ドイツ政府は2012年に、新しく道路を建設する際には、野生動物の生息地を閉ざしたままにせず、横断路で再びつなげるよう義務付ける法律を成立させました。

こうした生息地をつなぐ横断路を作らなければならなかった高速道路建設で、コマツの建設機械とソリューションが建設工事を効率化し、自然環境への負荷軽減に重要な役割を果たしました。

ザクセン=アンハルト州の森に橋を架ける

欧州コマツでスマートコンストラクションの責任者を務めるリチャード・クレメントは、ドイツのコルビッツ郊外で野生動物用横断路の「美しく魅力的な」デザインを初めて見たとき、そのプロジェクトの規模と目的に衝撃を受けました。

「当時は、道路の上に緑地帯をつくるためだけに、わざわざ美しいツインアーチ型の橋を建設するなんて非常に贅沢だと感じました」と、クレメントは振り返りました。しかし、時間が経つにつれ、彼は考えを変えざるを得ませんでした。

クレメントとコマツのチームは、アウトバーン (高速道路) 14号線の新設区間で切土/盛土と呼ばれる工程を担当しました。2つのアニマルブリッジのうちの一つは野生動物の横断路としてつくられたツインアーチ状の美しい形をしていました。もう一つは、コウモリが使っている自然界に存在する目印を途切れさせず、道路を安全に渡れるように設計された簡素な構造のものです。

新しいアウトバーンは、コルビッツとクレヘルンの間の森林地帯と原野を一直線に延びていきます。この地域はドイツで未開発の土地が最も残っている地域で、高速道路のない最大のエリアでもあると言われていました。ツインアーチ状のアニマルブリッジは、森林地帯を二分する区間に建設されることになりました。

「建設段階では、野生動物を作業現場へ近づけないようにしなければなりませんでした。」と、クレメントは言います。「道路の建設は、この森林地帯を移動する野生動物にとって巨大な障害物となってしまいます。」

技術で環境への負荷を軽減

クレメントとコマツのチームは、ある工区で掘削した土砂を、別の工区まで運び、盛土をする業者と協働しました。作業には、60万㎥の盛土用土砂を、8.5km先に運搬しなければなりませんでした。この作業での問題は、「現場スタッフが長い工区全体を視覚的に把握することでした。」と、クレメンスは語ります。小さなミスが作業の遅れや不要な掘削作業につながり、自然環境の破壊を更に進めてしまう可能性がありました。

ハードウェアとソフトウェア、そして熟練の技を結集し、チームはドローンとGPSによる追跡機能を使い、掘削現場と盛土現場の3次元データを作成しました。1時間ごとに撮影される地形写真により、現場作業員は進捗を確認し、掘削土量と盛土量の作業計画との差を正確に比較できました。このデータを活用することで、効率的な作業と最小限の環境負荷で施工することができました。



これは時間とコストを最小化すると同時に、環境にも配慮した施工です。これらのメリットは最適な建機とテクノロジーが揃うことで実現できます。
「現場での作業時間の短縮や作業効率の向上は、その地域環境への影響を最小限にし、燃料消費とCO₂排出を削減することができます」と、クレメントは言います。

 

環境に優しいビジョンを目指して

プロジェクトに関わってから3年後、クレメントはドイツをバイクで旅行し、この地を走りました。記憶では、洗練されているもののコンクリート打ち放しだったツインアーチ状のアニマルブリッジが、青々とした緑に覆われ、周囲の自然環境に溶け込んでいるのを見て嬉しくなりました。「完成した高速道路とアニマルブリッジを建設に携わった者の視点で眺めるのは非常に感動的でした。」と、彼は語りました。

この高速道路建設プロジェクトでコマツが検証した技術は、スマートコンストラクション®のSmart Construction FleetとDashboardアプリの一部として、現在では、欧州、オーストラリア、北米、アジア各地の建設現場で活用されています。

そして研究によると、この野生動物にやさしいアニマルブリッジの建設は、確実に成果を上げているという調査結果があります。一例として、5つのアニマルブリッジの6年間の野生動物の移動を調べたところ、一つのアニマルブリッジで野生動物が5,000~11,700回移動していたことが確認されています。


ベテランエンジニア、リチャード・クレメントを紹介します

1988年、リチャード・クレメントはコマツの新人研修を終え、配属された石川県にある粟津工場での仕事の準備に追われていました。
イギリスで生まれ育った新米エンジニアは、ジャスト・イン・タイム生産方式やフレキシブル生産システム、成長が著しいロボット分野といった最先端のイノベーションが、製造業を変えつつあった日本のコマツでキャリアをスタートすることに胸を膨らませていました。

このときの経験は、数年後に、新たなイノベーションと対峙したときに活きました。
イギリスに戻った彼とチームは、自動化技術を搭載した油圧ショベルを初めて目にしました。それは、ワクワクする反面、気後れする面もありました。

「当時は、従来の油圧やメカトロニクスの技術から、GPSや位置情報技術といった、全く経験のない分野に移行することに対して、かなりの懸念がありました。」

しかし、彼らは力を合わせてこの難題に取り組みました。「日本のコマツで働いた時、チームワークの大切さを学びました。一人ひとりの行動が、チームの成功につながり、メンバーの役割はどれも重要なのです。」
建機が現場でどのように活用されているかをもっと学ぶために、彼とチームのメンバーはいくつもの代理店や顧客を訪問し、建機の稼働状況を調査したり、顧客の建機管理者や現場のエンジニア、オペレーター、測量技師などと情報交換を重ねました。「こうした活動を通じ、コマツの製品開発には何が本当に重要かを学ぶことができました。それは、単に建機に注目するだけではなく、現場の作業工程にも目を向けなければならない、ということです。」

作業環境と工程に関わるすべてを理解するという、「現場」を大事にする姿勢は、コマツのスマートコンストラクションのソリューションを開発するうえで極めて重要でした。「工程全体が、『イエローマシン』つまり建機そのものと同じくらい重要であると気づけたことで、スマートコンストラクションを推し進めることができました。」その後に、高速道路とアニマルブリッジの建設でこれらの技術が役立ったことは、コマツでの経験がいかに重要であったかを物語っています。

当初は日本のものづくりを学ぶため、海外卒エンジニア向けの3年間のプログラムで入社したものの、最終的には日本やヨーロッパで37年間にわたりキャリアを積みました。2024年10月に欧州コマツを退職しましたが、彼は今後、新しい世代が未来のイノベーションのけん引役になってくれることを望んでいます。「業界の変革が進んでいくなか、重要なフェーズを担当するチャンスはあります。すべてのエンジニアに、それぞれの過程で大切な役割があるのです。」